NHK連続テレビ小説『らんまん』の第2週「キンセイラン」では、9歳の槙野万太郎(神木隆之介)が佐川の名教館に入学し、学問への情熱の芽生えを経験する。第6回から第10回(2023年4月10日〜14日)の5日間を、各話の核心シーンと牧野富太郎モデルの史実を照らし合わせて振り返る。

『らんまん』第2週「キンセイラン」のあらすじ(俯瞰)
第2週は、幼い万太郎が武士の子どもたちが通う学問所・名教館に初登校するところから始まる。身分違いゆえの洗礼を受けながらも、塾長・池辺蘭光(寺脇研)との出会いが万太郎の人生を変える転機となる。蘭光が語る植物の生態の話に心を奪われた万太郎は、初めて「学ぶ楽しさ」を知る。その後名教館は廃止され、新政府の小学校制度が佐川にも及ぶが、万太郎には一般的な授業が物足りない。第10回では、万太郎が小学校を中退するという大きな決断を下し、独自の植物学習の道を模索し始める。
第6回(4月10日・月曜)名教館の入学式で水をかけられた万太郎
万太郎が9歳になり、峰屋の当主として学問所に送り出された第6回は、身分をめぐる摩擦を正面から描く。
門前での洗礼──武士の子どもたちの壁
町人出身の万太郎が初めて名教館の石段に足を踏み入れると、門の前で突然、見知らぬ者に水を浴びせられる。武士の子どもたちが通う学問所に商家の息子が来たことへの反発を、ドラマは言葉ではなく「水」という行為で示した。松坂慶子演じる祖母・タキは「峰屋の当主としての格を見せよ」と万太郎を送り出すが、教室の空気は冷淡だった。万太郎はすぐに授業に馴染めず、窓の外の野草に視線を向ける。この第6回の演出で注目されるのは、名教館の石段を実際に高知県佐川町の青源寺で撮影している点だ。青源寺は、史実の名教館跡地から徒歩圏内にある寺院で、石段の質感に江戸末期から明治にかけての時代感が宿っている(出典:高知新聞、2023年)。
教室の植物図が万太郎を引きつける
授業の最中、万太郎は教師の話を聞かずに壁に貼られた植物の図を眺め続ける。この場面で万太郎がじっと見つめる植物標本の描き方は、後の「植物学者・槙野万太郎」の原型を暗示している。前週で母・ヒサ(広末涼子)が白い花を愛したことへの記憶と、眼前の植物図が重なり合う構図になっている。タキからは「世間を学べ」と言い聞かされるが、万太郎の関心はどこまでも草花へと向かっていく。第6回は、名教館という制度的空間が万太郎にとって「学問」ではなく「自然観察の機会」として機能し始める起点として描かれている。
名教館の撮影地・高知県佐川町の青源寺は、実際に幕末〜明治期に地域の子どもたちが学んだ場所の近くにある。牧野富太郎も実際の名教館(1772年創設・後の佐川小学校の前身)で学んだとされており、舞台設定の史実的な根拠は厚い。
第7回(4月11日・火曜)「今こそ変わる時だ」──蘭光先生との最初の言葉
万太郎が授業への嫌気から帰りかけた瞬間、池辺蘭光(寺脇研)が声をかける場面が第7回の核心となる。
授業を捨てて逃げ出す万太郎
2日目の名教館でも万太郎はなじめず、「もう行かん」と踵を返す。祖母タキの期待と、武士の子どもたちの排他的な空気の間で、万太郎は居場所を失っていた。この逃走の場面は、主人公が制度に収まれない「はみ出し者」であることを早期に示す構造になっている。同じ時間帯、姉・綾(佐久間由衣)も女性には相続権がないとされる帳簿を盗み見ており、峰屋の子どもたちが既存の「きまり」と格闘する姿が並走する。
蘭光先生の一言が万太郎を引き止める
門を出ようとした万太郎に、塾長・池辺蘭光が「今こそ変わる時だ」と告げる。このセリフは第2週のドラマ全体を貫くモチーフになっており、後の第9回で蘭光が去るときに改めて響く。寺脇研が演じる蘭光は威圧的ではなく、静かな視線で万太郎の可能性を見ている人物として描かれる。万太郎は帰りかけた足を止め、翌日また名教館へ向かうことを心に決める。前話で水をかけた武士の子どもたちの視線がまだ残る中、万太郎の「もう一度だけ」という選択が第7回の締めくくりになる。
第8回(4月12日・水曜)植物の話が万太郎の世界を開く
蘭光が万太郎に語りかける植物の生態の話。第8回は第2週で最も視聴率が高かった(15.5%)回であり、ドラマが「学びの喜び」を正面から描いた回でもある。
「植物は語りかけてくる」──蘭光の講義
教室の片隅で蘭光は万太郎に、植物がどのように光と水と土とやり取りをしているかを語りかける。専門的な植物学の知識ではなく、「なぜ葉はこの形をしているのか」「なぜ花の色はこうなのか」という問いかけの形で話を進めるのが蘭光のやり方だ。万太郎はこれまで野山で感じていた「なぜ?」が、言葉になって目の前に現れたような衝撃を受ける。脚本家・長田育恵は「学ぶことは問いを持つこと」をこの週の主題として設定したと後のインタビューで語っており、第8回はその主題が最も濃く表れたエピソードとして位置づけられる(出典:NHKウェブサイト、2023年)。
モデル・牧野富太郎の「問いかけ学習」との照応
史実の牧野富太郎も名教館(正式名:名教館 1772年佐川藩が創設)に通い、先人の学問を叩き込むのではなく、自然への問いかけを軸にした独学スタイルを生涯貫いた。ドラマの蘭光が万太郎に与えた「問いを持て」という姿勢は、後年の富太郎が東京帝国大学でも正規の学位を持たずに独自の植物研究を続けた姿勢と対応する。
牧野富太郎は自著に「植物に問いかけることが学問の始まりだ」という趣旨の言葉を残している。蘭光と万太郎の対話はこの精神と重なっている。
第9回(4月13日・木曜)蘭光先生が去る日──吉野川の最後の授業
名教館に通って3年、12歳になった万太郎の前で、新政府による廃校令が下る。第9回は「師との別れ」という普遍的なテーマを、明治の近代化という具体的な歴史の流れの中に置いた回だ。
廃校と蘭光の旅立ち
新政府の学制発布(1872年・明治5年)により、藩校や私塾が各地で廃止される動きが加速した。佐川の名教館もその例外ではなく、蘭光は塾を閉じて佐川を去ることになる。万太郎は蘭光のいなくなった後の空洞を埋めるすべを持たない。蘭光が万太郎に与えた3年間の時間は、「学問とは暗記でなく問いである」という根本的な態度だった。
吉野川での野外授業──最後の「師の言葉」
廃校を前に蘭光が万太郎を連れ出したのは、吉野川の畔だった。「自然を見ることをやめるな」と蘭光が万太郎に告げる場面は第9回の名場面として記憶される。川の流れの傍らで植物を観察する二人の構図は、教室という制度から解き放たれた学びの純粋な形を示している。後年、牧野富太郎が各地の野山を歩き回って植物を採集し続けた生涯と、この吉野川の場面は呼応する。史実の吉野川は高知県を流れる清流で、牧野の採集フィールドでもあった(出典:牧野植物園公式サイト)。
第10回(4月14日・金曜)万太郎が小学校を中退──独学への第一歩
蘭光が去った後、政府の新しい小学校に通い始めた万太郎だったが、第10回でその决断が明確になる。
「おんしには簡単すぎる」──授業との乖離
新政府の小学校では、読み書き計算の基礎が中心で、万太郎がすでに名教館で学んだ内容より遥かに初歩的だった。姉・綾と並んで同じ教室に通う(本作では女子の就学が認められた場面として描かれる)中で、万太郎は壁の植物図鑑を眺め、校庭の草花を観察することに集中し教師に叱られる。この場面の「植物に目がいってしまう」という万太郎の行動は、第6回の入学初日と鏡のような対応をしており、何も変わっていないように見えて、万太郎の知識は3年で大幅に深まっていることを示す。
中退という決断──峰屋とのせめぎ合い
第10回の結末で万太郎は小学校を中退する意思を示す。タキは峰屋の当主としての将来を案じ、万太郎を引き止めようとする。この葛藤は第2週全体の伏流として流れていたものだ。史実の牧野富太郎も小学校を中退し、独学で植物学を深めた。ドラマはこの史実を忠実に映しており、第10回は「制度の外に出た学習者としての万太郎」という本作の根幹を確定させるエピソードとなっている。視聴率は週平均15.1%(NHK発表・関東地区)だった。
第10回の「独学」という宣言がもたらす意味
中退という選択は、明治初期の社会では決して珍しくなかった。学制が発布されたのは1872年(明治5年)で、農村部や商家の子どもの多くは家業の都合で中退を余儀なくされていた。しかし万太郎の場合は「家業のため」ではなく「授業より野草に興味がある」という理由だ。この違いが、万太郎の中退をただの「やめた」ではなく「別の道への転換」として描く第10回の構造の骨格になっている。蘭光先生が去り、学校も合わない。残るのは「植物を観察し続ける」という万太郎自身の意志だけだ。
牧野富太郎は小学校を中退後、独学で英語・ドイツ語・ラテン語を習得し、欧米の植物学文献を読みこなした。正規教育の外で世界レベルの研究者になったという実績は、第2週で描かれた「中退」という選択の重みを後から証明している。
『らんまん』第2週「キンセイラン」ネタバレまとめ
- 万太郎(9歳)が名教館に入学し、入学初日に門前で水をかけられる
- 池辺蘭光(寺脇研)が万太郎に「今こそ変わる時だ」と語りかける
- 蘭光が植物の生態を語り、万太郎が初めて学ぶ楽しさを知る(第8回・視聴率15.5%)
- 姉・綾(佐久間由衣)も帳簿を盗み見るなど、峰屋の「きまり」に反発する
- 名教館に通って3年が経過し、万太郎は12歳になる(第9回)
- 新政府の学制発布により名教館が廃校になると決定
- 蘭光が去る前に吉野川の畔で最後の野外授業を行う
- 万太郎と綾が新設の小学校に入学(女子の就学が可能になった時代を反映)
- 万太郎は小学校の授業が物足りず、植物の観察ばかりして叱られる
- 第10回の結末で万太郎が小学校を中退すると決断する
- 史実の牧野富太郎も名教館と小学校を経て中退、独学の道を歩んだ
第2週の演出・映像を読む
第2週の演出で特筆すべきは、名教館の入学シーンにおける「水」の象徴的な使い方だ。第6回冒頭で万太郎が水をかけられる場面では、カメラがロングショットで石段全体を収め、町人の子どもが武家の門をくぐる孤独さを画面の広さで表現している。一方、第8回で蘭光が万太郎に植物を語る場面では、画角が急に狭くなる。二人を枠に収めたクローズアップで、二人だけの世界が生まれたことを視覚的に示している。NHKの朝ドラ演出として、佐川の光は独特の暖かみをもって撮影されており、コロナ前後に行われた高知ロケの映像は「土佐の光」として話題になった。
また、名教館の撮影地である高知県佐川町の青源寺は、江戸末期創建の曹洞宗の寺院だ。実際の名教館(佐川藩の藩校・1772年設立)の跡地は現在の佐川小学校付近にあり、青源寺の石段は雰囲気が近いとして選ばれた(出典:高知新聞、2023年4月)。
朝ドラでは「学校シーン」は多くの作品で描かれるが、『らんまん』第2週は教室より野外、授業より問いかけを重視することで、主人公の学び方の独自性を際立たせている点が特徴的だ。
第2週のご当地・文化・モデル──名教館と牧野富太郎の佐川
第2週の舞台・高知県佐川町は、牧野富太郎(1862〜1957年)の生誕地だ。名教館は実在した藩校で、1772年(明和9年)に土佐藩の支藩・佐川領主・深尾重良が創設した。史実の牧野も名教館に入学したが、万太郎と同様に中退して独学の道を選んでいる。
「キンセイラン」というタイトルの植物は、ラン科の多年草キンセイランであり、牧野富太郎が1899年(明治32年)に学名Cyrtosia septentrionalosを与えた。週タイトルに植物名を使う構成は本作全体に貫かれており、各植物は万太郎の人生の局面と対応している。キンセイランは金色の星のような花を持つ薄暗い森の植物で、「制度の暗がりの中で光る才能」という意味合いが第2週のモチーフと呼応する(出典:牧野富太郎記念館公式)。
佐川町は現在も「牧野富太郎の里」として観光資源になっており、名教館跡に建つ牧野公園(佐川小学校の近く)では富太郎ゆかりの植物が栽培されている。『らんまん』の放送を機に佐川町へのアクセスが増加したことは高知新聞が報じており、2023年5月の時点でGWの観光客数が前年比で大きく伸びた。
第2週の登場人物・キャスト
第2週に登場する主要キャストを一覧にする。
| 役名 | 俳優 | 第2週での動き |
|---|---|---|
| 槙野万太郎 | 神木隆之介 | 9歳→12歳。名教館入学〜小学校中退を決意 |
| 槙野綾 | 佐久間由衣 | 帳簿を盗み見るなど峰屋の「きまり」に反発 |
| 槙野タキ | 松坂慶子 | 孫・万太郎を峰屋当主に育てようと奔走 |
| 池辺蘭光 | 寺脇研 | 名教館塾長。万太郎の人生の師となる。第9回で去る |
| 竹雄 | 志尊淳 | 万太郎の幼馴染・下人。万太郎を支え続ける |
第2週の名シーン・名セリフ
第2週で後年も語り草となった名場面を3点挙げる。
まず、第8回の「蘭光が植物を語る場面」だ。「この花がなぜこの色をしているのか、考えたことはあるか」という蘭光の問いかけに、万太郎が眼を輝かせて答えられない——という場面は、「問いを持つことが学びの始まり」というドラマのテーマが最も凝縮された形で表れている。
次に、第9回の吉野川シーン。廃校を前に蘭光が告げる「自然を見ることをやめるな」という言葉は、第2週でもっとも引用されたセリフとして知られ、Xでは放送後にトレンド入りしたと複数のメディアが伝えた(出典:ORICON NEWS、2023年4月)。
そして第10回の結末、万太郎が小学校を中退すると決断する場面。タキの「峰屋をどうするつもりじゃ」という静かな問いに、万太郎が答えを持てないまま画面が暗転する演出が、視聴者の間で「第2週で最も重い場面」と評された。
第2週の視聴率
『らんまん』第2週「キンセイラン」の視聴率(関東地区・NHK発表)は週平均15.1%だった。最高値は第8回(4月12日・水曜)の15.5%。第1週の初回(16.1%)から若干落ち着いた水準で推移しているが、2023年春の朝ドラとして安定した数字を維持している。
次週・第3週「ジョウロウホトトギス」の見どころ
第3週「ジョウロウホトトギス」では、万太郎が18歳になり、初めてジョウロウホトトギスという花を発見する。峰屋の酒が東京の博覧会に出品されることを機に、万太郎と竹雄は初めて高知を離れ上京する。上野の博覧会会場で万太郎は酔いつぶれ、後に人生の伴侶となる寿恵子(浜辺美波)と出会うことになる。

・NHK「らんまん」公式サイト https://www.nhk.or.jp/ranman/
・高知新聞「名教館撮影地・青源寺レポート」2023年4月
・ORICON NEWS「らんまん第2週振り返り」2023年4月15日
・MANTANWEB「らんまん第2週視聴率15.1%」2023年4月17日
・牧野富太郎記念館(高知県立牧野植物園内)公式 https://www.makino.or.jp/
・牧野植物園公式「牧野富太郎の生涯」
・ザテレビジョン「らんまん第2週キャスト一覧」2023年4月
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