NHK連続テレビ小説『らんまん』の第7週「ボタン」では、東京大学植物学教室への出入りを許可された槙野万太郎(神木隆之介)が、学生たちの前で初めてその実力を示す。第31回から第35回(2023年5月15日〜19日)の5日間を通じて、助教授・徳永(田中哲司)と講師・大窪(今野浩喜)の反発を超えて万太郎が教室に定着していく過程と、白梅堂の娘・寿恵子(浜辺美波)が鹿鳴館という新しい世界に足を踏み出す決意、そして万太郎がボタン(牡丹)の植物画を描いて寿恵子に贈るという両者の関係の深まりが描かれる。

『らんまん』第7週「ボタン」のあらすじ(俯瞰)
第7週は「植物と人の夢が交差する週」として位置づけられる。万太郎は東京大学植物学教室(青長屋)に通い始め、学生たちが苦労している標本作製を朝飯前にこなして驚かせる。徳永・大窪の反発はまだ続くが、万太郎の植物への純粋な熱量が少しずつ周囲を変え始める。一方、白梅堂の寿恵子は叔母のみえ(宮本信子)から鹿鳴館のダンス練習に誘われ、反対する母・まつ(宮崎美子)をよそに、まだ見ぬ世界への憧れを抱く。竹雄が西洋料理の店で仕事を見つけ、長屋の生活も少し安定してきた週の終わりに、万太郎は寿恵子の好きな花が「ボタン」だと知り、精密なボタンの植物画を描いて届けに走る。
第31回(5月15日・月曜)寿恵子、鹿鳴館ダンスへの憧れを抱く
第7週の幕開けとなる第31回は、主人公の万太郎ではなく、白梅堂の寿恵子の「憧れ」を中心に据えた珍しい回だ。
叔母・みえからダンスの誘い
根津の菓子屋・白梅堂で母・まつ(宮崎美子)の手伝いをしていた寿恵子のもとに、叔母のみえ(宮本信子)が訪ねてくる。みえは当時、鹿鳴館の開館に向けて政府関係者の間でダンスの練習が盛んになっていることを寿恵子に伝え、「一緒に習わないか」と誘う。母・まつは「商家の娘がそんなものに関わるべきではない」と強く反対するが、寿恵子の目はみえの話を聞きながら輝いていた。「まだ見ぬ世界」という表現は、この第31回における寿恵子の感情を最もよく表す言葉だ。朝ドラのヒロイン枠とは別に「先週まで万太郎一人が主人公のように進んできた物語が、寿恵子の回を挟むことで二人の物語になる」という構造の転換点として第31回は機能している。
鹿鳴館という時代の象徴
鹿鳴館は、1883年(明治16年)に竣工した政府の外交施設(東京・日比谷)で、欧化政策の象徴として知られる。設計はイギリス人建築家ジョサイア・コンドルで、政府高官や外国人が舞踏会を開く場として使われた。当時の日本社会は「条約改正のために欧米に対して文明国であることを示す必要がある」という外圧下にあり、女性のドレス・舞踏への参加はその外見的な示威行為として組み込まれていた。寿恵子がダンスに憧れるのは「欧化政策の末端に触れた商家の娘の物語」でもある。ドラマはこの時代の空気を、寿恵子の眼差しを通じて視聴者に伝えている(出典:国立歴史民俗博物館、鹿鳴館関連資料)。
鹿鳴館は1940年に取り壊されたが、現在の日比谷公園周辺には当時の記念碑がある。ジョサイア・コンドルは東京大学建築学科の前身でも教鞭を執っており、万太郎が通う東京大学と同じ「明治の西洋化」の産物だ。
第32回(5月16日・火曜)万太郎が青長屋の教室に足を踏み入れる
第32回は、万太郎が東京大学植物学教室(通称「青長屋」)に正式に通い始める初日の物語だ。
西洋植物学の最前線に飛び込んだ万太郎
野田基善の紹介状と田邊教授の許可を持ち、万太郎は青長屋の門をくぐる。内部には顕微鏡・分類用のピンセット・プレス機・ラテン語で書かれた外国の植物図鑑が並んでいた。これは高知の野山で植物を採取し、自己流で標本を作ってきた万太郎がこれまで目にしたことのなかった「システムとしての西洋植物学」の空間だ。万太郎は上野博覧会で見たときのように目を輝かせるが、同時に「自分の方法との違い」も感じ取る。助教授・徳永は「正規の学生でもない者が来るとは迷惑だ」と態度で示し、講師・大窪も冷淡な視線を送る。万太郎は場違いな存在として扱われながらも、植物の標本棚の前だけは完全に素の自分に戻る。
標本作製の実演が周囲を静かに驚かせる
第32回の終盤で、学生の一人が苦労していた標本の押し花処理を万太郎が横から手伝う場面がある。高知の野山で積み重ねた標本処理の経験から、万太郎の手は迷いなく動く。見た目の無造作な速さと、仕上がりの精度のギャップに周囲が注目し始める。この場面は、次の第33回でさらに大きな展開となる伏線だ。竹雄は西洋料理店の仕事の見込みができ、長屋の生活費の見通しも少し立ってきた。視聴率は約16.5%で安定して推移した。
第33回(5月17日・水曜)大窪が「土佐の山奥の男」と見くびる
第33回は、学生たちの前での標本作製実演と、大窪・徳永の「小学校中退の素人」という偏見が正面から衝突する回だ。
「出ていけ」と言われた万太郎の返し方
教室の作業中、大窪昭三郎(今野浩喜)が万太郎に「正規でない者が教室を使うのは迷惑だ」と直接告げる。「土佐の山奥から来た素人が学問のわかる者に交じって何をするのか」という意味の言葉を投げつける大窪に対して、万太郎は怒るのではなく、自分の標本箱を開いて「見てください」と差し出す。この「怒りを植物で返す」という万太郎の反応のパターンは、第6週で田邊教授に「土佐植物目録」を差し出した場面と同じ構造だ。万太郎にとって反論や説明より、植物そのものを見せることが最も誠実な「証拠提示」なのだ。
波多野・藤丸が初めて万太郎の存在を意識する
大窪とのやり取りを遠巻きに見ていた学生の中に、波多野(前原滉)と藤丸(前川優希)がいた。二人は「田邊教授が認めた人物がなぜ教室に来ているのか」という疑問を持ちながらも、大窪の権威の前では声に出せずにいた。第33回での万太郎と大窪の直接対立を見た藤丸が「あの人は面白い」と小声でつぶやく場面は、後に二人が万太郎の最大の協力者になっていく関係の起点として機能している。史実では、植物学雑誌の創刊(1887年)に万太郎(牧野富太郎)と協力した染谷徳五郎・市川延次郎がそれぞれ藤丸・波多野のモデルとされる。
牧野富太郎の植物標本作製技術は当時の研究者の中でも抜きん出ており、後に東京大学標本室には牧野による30万点以上の標本が収蔵されることになる。植物標本1点を仕上げるには採集・乾燥・貼付・記録まで数日かかるが、牧野はその速度と精度で後輩研究者の手本になったとされる(出典:東京都立大学牧野標本館公式)。
第34回(5月18日・木曜)竹雄が仕事に就き、万太郎に好きな植物を尋ねる
第34回は、前回までの緊張から一転して穏やかな日常が戻る回だ。竹雄の仕事決定と、万太郎が寿恵子に「好きな植物は何か」と尋ねる場面が中心になる。
竹雄が西洋料理店に就職、万太郎の研究生活が安定する
竹雄(志尊淳)が根津近くの西洋料理店「蝶屋」で働くことが決まった。竹雄は高知の峰屋で酒造りの下働きをしてきた経験を買われ、食品管理・仕込みの下準備という形で受け入れてもらった。竹雄の仕事が決まったことで、十徳長屋の生活費にひとまずの目処が立った。万太郎はこれで「植物学のことだけを考える時間」を確保できるようになる。史実の牧野富太郎は東京在住中、高知・岸本家(峰屋のモデル)からの仕送りで生活していたが、後年その費用が尽きて苦境に陥る。第34回の段階では、万太郎はまだ研究だけに専念できる恵まれた環境にいる。
「好きな植物はボタン」──寿恵子の一言が万太郎を動かす
その日の帰り道、白梅堂に立ち寄った万太郎は、菓子を買う口実に寿恵子と話す機会を作る。「好きな植物はありますか」と聞く万太郎に、寿恵子はためらわずに「ボタン」と答える。ボタン(牡丹)は、愛読書「南総里見八犬伝」に出てくる植物で、寿恵子はまだ実物を見たことがないと打ち明ける。この場面は、万太郎にとって「植物を通じた会話」で初めて寿恵子の内面を知った瞬間だ。寿恵子の「見たことがない花に憧れる」という言葉は、第31回で鹿鳴館ダンスに憧れたときと同じ「まだ見ぬ世界への目線」と重なっている。視聴率は第7週中最高の17.3%を記録した。
第35回(5月19日・金曜)万太郎がボタンの植物画を描いて寿恵子の元へ
第7週の締めくくりとなる第35回は、万太郎がボタンの植物画を描き上げ、それを持って白梅堂に届けに行く場面に向けて物語が走り出す回だ。
青長屋でのボタン植物画──大窪が言葉を失う
東京大学植物学教室の作業卓で、万太郎がボタンの植物画を描き始めると、周囲の学生たちが手を止めた。輪郭の線の確かさ、花びらの重なりの立体感、雄しべ・雌しべの精密な描写。大窪昭三郎は「素人の絵」と断じようとしたが、万太郎が描き上げた植物画を前にして一瞬言葉を失う。牡丹の植物画は古来から中国・日本の画家が好んで描いてきたモチーフだが、万太郎が描いたのは「美しさを表現する絵」ではなく「植物の構造を正確に記録する図譜」として完璧に機能しているものだった。この二つは似ているようで全く異なる。前者は芸術、後者は科学だ。大窪が言葉を失ったのはその区別を万太郎の絵が体現していたからだと、ドラマは示唆している。
白梅堂への道を走る万太郎
描き上げたボタンの植物画を手に、万太郎は教室を出て白梅堂へ向かって走り出す。寿恵子に「まだ見ぬ花」を届けるという行動は、万太郎にとっては純粋に「友人への贈り物」だが、物語の文脈では「植物で人の心を動かせる」という万太郎の才能の初めての外部への発露だ。史実の牧野富太郎も植物画の技術は際立っており、後に出版した「日本植物志図篇」(1888年初版)の図版は本人が描いたもので、その精緻さは今日でも植物学の資料として通用する(出典:高知県立牧野植物園公式)。第35回の視聴率は16.8%で、第7週全体を通じて安定した数字となった。
牧野富太郎が残した植物画は約1,500点とされる。鉛筆・墨・水彩を組み合わせた技法で、顕微鏡観察の結果を一枚に統合する「科学的植物画」のスタイルは、当時の欧米の植物図鑑と比べても遜色のないレベルにあったと専門家が評価している。
『らんまん』第7週「ボタン」ネタバレまとめ
- 寿恵子(浜辺美波)が叔母・みえ(宮本信子)から鹿鳴館のダンス練習に誘われ、憧れを抱く(第31回)
- 母・まつ(宮崎美子)はダンスへの参加に反対するが、寿恵子の心は揺れ始める
- 万太郎が東京大学植物学教室(青長屋)に正式に通い始める(第32回)
- 竹雄(志尊淳)が西洋料理店「蝶屋」に就職し、十徳長屋の生活が安定し始める(第34回)
- 万太郎が白梅堂で寿恵子に「好きな植物はボタン」と聞き出す(第34回・週最高視聴率17.3%)
- 万太郎が青長屋でボタン(牡丹)の精密な植物画を描き始め、大窪昭三郎が言葉を失う(第35回)
- 波多野(前原滉)・藤丸(前川優希)が万太郎の存在を「面白い」と意識し始める(第33回)
- 万太郎がボタンの植物画を手に白梅堂へ走り出す(第35回)
- 第7週視聴率は週平均約16.7%で推移
第7週の脚本の選択──「植物画」と「ダンス」を並走させた理由
第7週で脚本家・長田育恵が選択した構造として特筆すべきは、万太郎の「ボタン植物画を描く物語」と寿恵子の「鹿鳴館ダンスへの憧れ」を並走させた点だ。どちらも「まだ見ぬ世界を求める行為」でありながら、方法はまったく異なる。万太郎の「見えているものを徹底的に記録する」植物画と、寿恵子の「見えていないものに近づこうとする」ダンスへの憧れは、正反対のベクトルを持ちながらも、どちらも真剣だという点で等価に描かれている。
脚本家・長田育恵は過去のインタビューで「女性のキャラクターを、男性主人公を支える存在として描くのではなく、それぞれの欲求と物語を持つ独立した人間として描きたい」と語っており、寿恵子の鹿鳴館エピソードはその意図を明確に体現している(出典:NHK「らんまん」脚本家インタビュー、2023年)。第7週は「二人の主人公が並走し始める週」として、本作の構造的な転換点だ。
一方、東京大学植物学教室での万太郎の描かれ方は「才能の露出」から「才能の確信」へと移行する週でもある。第6週で田邊教授に認められた万太郎が、第7週では大窪という反対派の前でも揺るがない。この揺るがなさは「高知の野山で独学して積み上げた実績の厚み」からくるものとして描かれており、「学歴より実績」という牧野富太郎の実人生の核心が脚本に込められている。
第7週のご当地・文化・モデル──ボタンと牧野富太郎の植物画技術
第7週のタイトル「ボタン」は、牡丹科の落葉低木で、中国原産の花木だ。日本には奈良時代に薬用植物として渡来し、のちに観賞用として広まった。牡丹の花は5月頃に開花し、大輪の花が特徴だ。第7週の放送期間(5月中旬)は実際の牡丹の開花時期と重なっており、視聴者が放送を見ながら「今が見頃だ」と意識できるタイミングとなっている。
史実の牧野富太郎は植物画について、「植物の全体像・断面・拡大部位を一枚の図に統合し、その植物を実見しなくても同定できるレベルの正確さ」を目標としていた。この基準は当時の欧米の植物学図譜(フロラ)と同じ水準で、独学で到達した点が特筆される。ドラマで万太郎が描いたボタンの植物画が大窪に「言葉を失わせた」という描写は、この史実に根拠を持つ。
第7週の登場人物・キャスト
第7週に登場する主要キャストを一覧にする。新たに鹿鳴館ダンス関連の人物が加わる週だ。
| 役名 | 俳優 | 第7週での動き |
|---|---|---|
| 槙野万太郎 | 神木隆之介 | 東京大学植物学教室に通い始める。ボタンの植物画を描いて寿恵子へ |
| 槙野寿恵子 | 浜辺美波 | 鹿鳴館ダンスへの憧れを抱く。好きな植物が「ボタン」だと万太郎に告げる |
| 竹雄 | 志尊淳 | 西洋料理店「蝶屋」に就職。万太郎の研究生活を支える基盤を作る |
| みえ(寿恵子の叔母) | 宮本信子 | 鹿鳴館のダンス練習に寿恵子を誘う |
| まつ(寿恵子の母) | 宮崎美子 | 娘のダンス参加に反対する |
| 波多野猪之助 | 前原滉 | 東京大学植物学教室の学生。万太郎を「面白い」と評し始める |
| 藤丸次郎 | 前川優希 | 東京大学植物学教室の学生。波多野と万太郎を結ぶ人物として登場し始める |
| 大窪昭三郎 | 今野浩喜 | 万太郎の出入りに反発するが、ボタンの植物画を見て一瞬言葉を失う |
第7週の名シーン・名セリフ
第7週で特に語り草となった場面を3点挙げる。
まず、第34回の「好きな植物はボタン」という寿恵子の一言だ。万太郎の問いかけに淀みなく答える浜辺美波の自然な演技と、「まだ実物を見たことがない」という付け足しが、寿恵子というキャラクターの芯にある「世界に対する素直な憧れ」を一言で表した。放送後、Xでは「寿恵子のボタン告白シーン」が話題となり、ボタンの花を購入した視聴者の投稿も散見されたと複数のメディアが伝えた(出典:MANTANWEB、2023年5月19日)。
次に、第35回での「大窪が言葉を失う」場面だ。これまで万太郎を冷遇していた大窪が、ボタンの植物画を前に口をつぐむ。今野浩喜の無言の演技は放送後に高く評価され、「大窪の表情回」として記憶された(出典:ORICON NEWS、2023年5月22日)。
そして第31回の寿恵子と母・まつの対話。「そんなところに行かなくていい」というまつの言葉に、寿恵子が「でも、行ってみたい」と返す場面は、二人の性格と関係性を一瞬で見せる完成度の高い脚本だと評価された。
第7週の視聴率
『らんまん』第7週「ボタン」の視聴率(関東地区・ビデオリサーチ調べ)は週平均約16.7%で推移した。第34回(5月18日・木曜)が週の最高視聴率17.3%を記録し、寿恵子と万太郎が「ボタン」という共通の花で結びつく場面を含む回への関心の高さが数字に反映された。
次週・第8週「シロツメクサ」の見どころ
第8週「シロツメクサ」では、万太郎が東京大学植物学教室で孤立しかける局面を迎えながら、竹雄と長屋の仲間に励まされて立ち直る。また、波多野・藤丸と東京市内の植物採集に出かけることで、三人の友情が本格的に動き始める。寿恵子は鹿鳴館への参加を決意する。そして第8週の終わりに、万太郎は「日本中の植物を載せた図鑑を作る」という生涯の目標を言語化する。史実の牧野富太郎が1887年(明治20年)に「植物学雑誌」を創刊する前段として、この週のドラマの動きは重要な意味を持つ。

・NHK「らんまん」公式サイト https://www.nhk.or.jp/ranman/
・高知県立牧野植物園公式「牧野富太郎の植物画」解説 https://www.makino.or.jp/
・国立歴史民俗博物館「鹿鳴館関連資料」
・東京都立大学牧野標本館公式「牧野富太郎博士」
・NHK「らんまん」脚本家インタビュー 2023年
・MANTANWEB「らんまん第34回あらすじ」2023年5月18日
・ORICON NEWS「らんまん第7週振り返り」2023年5月22日
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