NHK連続テレビ小説『らんまん』の第3週「ジョウロウホトトギス」は、18歳になった槙野万太郎(神木隆之介)が初めて高知を離れ、上野の博覧会で未来の妻・寿恵子(浜辺美波)と出会う5日間を描く。第11回から第15回(2023年4月17日〜21日放送)の各話を、牧野富太郎モデルの史実と照らし合わせながら振り返る。

『らんまん』第3週「ジョウロウホトトギス」のあらすじ(俯瞰)
第3週は、万太郎が採集中に未知の花・ジョウロウホトトギスを発見するところから始まる。峰屋の酒が東京の第2回内国勧業博覧会(上野)に出品される機会を得たことで、万太郎と竹雄(志尊淳)が初めて汽車と蒸気船を乗り継いで東京へと向かう。上野の博覧会会場で万太郎は品評会に参加しながらも下戸なのに無理をして酒を飲んで酔い、会場を飛び出した先で後に妻となる寿恵子と出会う。博物館への念願の訪問、そして帰路と、「外の世界」の広さを初めて体感した万太郎の変化が第3週の軸になっている。
第11回(4月17日・月曜)ジョウロウホトトギスとの出会い──万太郎18歳
万太郎が18歳になり、ドラマは子役期から神木隆之介が演じる青年期へと完全に移行する。この回は万太郎の植物探求者としての本格的な出発点だ。
横倉山でジョウロウホトトギスを発見
万太郎は採集のために佐川近郊の山を歩き、ジョウロウホトトギス(上臈杜鵑草)という見たことのない花を見つける。ロングな黄色い花弁に赤紫の斑点が入るこの花は、土佐の渓谷沿いの岩場にしか生えない希少種だ。史実では、牧野富太郎が横倉山(高知県越知町)でジョウロウホトトギスを採集したのは1882年(明治15年)、20歳の時とされており、ドラマは「18歳」と2年早めているが、舞台の横倉山自体は実在する(出典:牧野富太郎記念館公式)。この花を「誰も名前をつけていない」と直感した万太郎の表情が、後の命名者としての人生を先取りしていた。
峰屋の博覧会出品決定と東京行きの機会
一方、峰屋では竹雄の父・幸平(池内万作)が峰屋の酒を第2回内国勧業博覧会(上野)に出品することを決める。当主として立てられている万太郎が、その品評会への同行を求められる形で東京行きの機会が生まれる。タキは峰屋の体面のために万太郎を送り出すが、万太郎の頭の中には「東京に行けば植物の先生に会える」という期待が満ちている。姉・綾(佐久間由衣)は蔵人・幸吉との接点が深まる中で、峰屋の酒造りへの情熱を内に秘めている。
ジョウロウホトトギスは現在も高知県の渓谷・横倉山周辺に自生しており、8〜10月に開花する。牧野富太郎は1886年(明治19年)に学名「Tricyrtis macrantha」として記載。後年「ジョウロウ(上臈)」という貴族的な名を与えたのは、花が優雅に垂れ下がる姿に由来する。
第12回(4月18日・火曜)東京行きが決まる──竹雄との「二人旅」
峰屋の代表として上京することが正式に決まり、万太郎は竹雄を連れて初めて高知を離れる準備を進める第12回だ。
竹雄への説明と旅の計画
万太郎が竹雄に「東京に行くぞ」と告げる場面では、竹雄が戸惑いながらも万太郎を支えるという関係性が改めて確認される。竹雄は幼い頃から万太郎の植物集めに付き合ってきた人物で、万太郎の夢と峰屋の現実の間で板挟みになりながらも「供をする」ことを引き受ける。志尊淳が演じる竹雄の、笑顔の奥に苦しさをにじませる表情は、第12回で第3週の情感を支える重要な役割を果たしている。
姉・綾の選択と万太郎のすれ違い
綾は万太郎の東京行きに内心複雑な思いを抱く。万太郎が外に出られる機会が生まれる一方、綾は峰屋に縛られたままだ。蔵人・幸吉への気持ちを抑えながら酒造りに打ち込む綾の姿と、上京を楽しみにする万太郎の姿が対比的に描かれる。「男は外、女は内」という明治初期の構造が、綾と万太郎の関係に静かに埋め込まれている。佐久間由衣の演技は、複雑な感情を顔の微細な変化だけで表現しており、第12回は綾の物語の転換点として機能している。この兄妹のすれ違いは第4週でさらに大きく展開するが、その布石が第12回に丁寧に置かれている。
竹雄の準備と旅への期待
竹雄(志尊淳)は東京行きの準備を黙々と進める。生まれて初めての遠旅に戸惑いながらも、「万太郎の供をする」という竹雄の姿は、二人の間に長年培われた信頼の重みを示す。峰屋の外に出ることへの期待と不安が竹雄の表情に滲み、第12回の後半部分に人物描写の厚みをもたらしている。
第13回(4月19日・水曜)上野博覧会、そして寿恵子との出会い
万太郎の人生で最も重要な出会いを描く第13回は、視聴率16.2%(第3週最高)を記録した。「万太郎と寿恵子の出会い」はドラマ全体の中でも指折りのシーンとして語られる。
第2回内国勧業博覧会・上野到着
汽車と蒸気船を乗り継いでようやく東京・上野に到着した万太郎と竹雄は、第2回内国勧業博覧会の会場の広さに圧倒される。史実の第2回内国勧業博覧会は1881年(明治14年)3〜6月に上野公園で開催され、入場者数は82万人超を記録した明治初期最大規模の産業博覧会だ(出典:国立公文書館デジタルアーカイブ)。ドラマの時代設定は必ずしも史実年代と一致するわけではないが、会場の熱気と近代化の活気が丁寧に再現されている。
品評会で酔って飛び出す──寿恵子と出会う
峰屋の酒の品評会に参加した万太郎は、下戸なのに会場の雰囲気に流されて酒を口にしてしまう。みるみる顔が赤くなり、会場から飛び出した万太郎が辿り着いた場所で出会ったのが、後に妻となる寿恵子(浜辺美波)だ。寿恵子は扇屋に勤める女性として登場し、まだ名前さえ知らないまま二人の最初の言葉が交わされる。この場面の神木隆之介と浜辺美波の対話は、酔っぱらいと困惑した女性という設定にもかかわらず、互いを深く引き付け合う何かを感じさせる演技として評価された(出典:ORICON NEWS、2023年4月)。
史実の牧野富太郎が上京したのは1884年(明治17年)、22歳の時。東京植物学会の会合に出席し、東京大学(当時・帝国大学)植物学教室に自ら押しかけた。ドラマは時期を早め「博覧会での出会い」という劇的な入口に変えているが、上野という舞台は史実と重なる。
第14回(4月20日・木曜)博物館への念願の訪問
第14回では、博覧会会場の傍らにある博物館(東京博物局)に万太郎が念願の訪問を果たす。
標本と図鑑の世界──万太郎が「先を行く世界」を知る
博物局の展示室に並ぶ植物標本、欧米から持ち込まれた植物図鑑の精緻な図版。万太郎はこれを目の当たりにし、佐川の山で自分がやってきた「植物を知ること」が世界ではるかに体系的に進んでいることを知る。この経験が後の「東京に行って植物学を学びたい」という決意の根拠になっていく。第14回は直接的な大事件が起きるわけではないが、万太郎の内面に火を付けたエピソードとして機能している。
竹雄の目から見た万太郎の変化
博物館の中で目を輝かせる万太郎を、竹雄は複雑な思いで見ている。竹雄自身は植物学に熱中できるわけではない。それでも万太郎の喜びが竹雄を引きとめる力になっている。この二人の関係の非対称性が第14回で静かに描かれており、第5週で表面化する「竹雄の決断」への布石になっている。
東京帝国大学植物学教室の「外から見た風景」
万太郎が第14回で訪れる博物局の傍らには、日本の植物研究を束ねる大学機関の存在もある。史実では東京帝国大学(当時:帝国大学)の植物学教室は1886年(明治19年)に設置され、ドイツ人植物学者コーニヒを筆頭に欧米の研究手法が導入されていた。万太郎が「外から覗く」しかできない状態でこの「権威の世界」に触れるという構造が、後の「帝国大学との軋轢」という主要テーマの伏線になっている。
第15回(4月21日・金曜)東京を離れる万太郎──見えない次の扉
上野での博覧会参加と博物館訪問を終え、万太郎と竹雄が佐川への帰路につく第15回だ。
寿恵子への想いと、植物学の夢の交差
第13回で出会った寿恵子の顔が、万太郎の帰路の記憶に残る。名前を聞きそびれたまま別れた二人の間には、再会への可能性が静かに残される。万太郎の頭の中では「あの花・ジョウロウホトトギスに名前をつけたい」という植物への情熱と、「もう一度、東京に来たい」という寿恵子への気持ちが重なり始めている。浜辺美波が演じる寿恵子のたおやかな存在感は第13回の出会いシーンから既に確かで、万太郎の「また会いたい」という気持ちが視聴者にとって自然なものとして届く演技だった。
東京という世界の大きさを抱えて帰る万太郎
佐川に帰る万太郎は、出発前とは別人のように見える。博覧会の喧騒、博物館の標本、そして寿恵子との出会い。これらの経験が万太郎の中に「峰屋の当主」という役割への問いを芽吹かせる。汽車の窓から流れる景色の中で、万太郎はすでに「次に東京に来る時は、植物学者としての理由が必要だ」と考え始めている。第15回の結末は第4週「ササユリ」への橋渡しであり、万太郎がタキに「植物の研究はやめる」と嘘をつくことになる伏線が、この第15回の帰路に宿っている。帰り際に万太郎と竹雄が交わす短い言葉は、二人が見てきた「東京という現実」の重さを静かに示している。
『らんまん』第3週「ジョウロウホトトギス」ネタバレまとめ
- 万太郎(18歳)が採集中に高知の山でジョウロウホトトギスを発見
- ジョウロウホトトギスは土佐渓谷の岩場にのみ自生する希少種(実在)
- 峰屋の酒が上野・第2回内国勧業博覧会への出品が決まる
- 万太郎と竹雄が初めて汽車と蒸気船で上京する
- 品評会で万太郎が下戸なのに飲酒して酔いつぶれ、会場から飛び出す
- 会場外で万太郎が後の妻・寿恵子(浜辺美波)と初めて出会う
- 第13回視聴率16.2%(第3週最高・NHK発表・関東地区)
- 万太郎が博物館(東京博物局)を訪れ、欧米の植物図鑑と標本に圧倒される
- 竹雄が万太郎の内なる変化を複雑な想いで見守る
- 帰路で万太郎は「また東京に来たい」という思いを胸に抱く
第3週の時代背景──明治初期の上野と内国勧業博覧会
第3週の重要な舞台は上野公園だ。第2回内国勧業博覧会は1881年(明治14年)3月1日〜6月30日に上野公園で開催され、明治政府が国内産業の振興・近代化を促すために設けた一大イベントだった。入場者数82万7648人(出典:明治政府官報・産業博覧会報告書1881年)という規模は、当時の東京の人口の約8割に相当する。
博覧会には農産物・製糸・陶器から兵器・医療器具まで多様な品目が並び、地方の酒蔵が酒を出品するケースも多かった。出品部門は5部門(農産物・製造物・機械・美術・諸外国からの寄贈品)に分かれており、地方の特産品として土佐の酒・土佐漆器・土佐紙が出品された記録がある(出典:国立公文書館デジタルアーカイブ)。峰屋の酒が出品されるという設定は、この時代背景に合致している。万太郎が会場で「近代化する日本」の圧倒的な活気を体験するエピソードは、史実の牧野富太郎が東京帝国大学植物学教室に自ら乗り込み、既存の制度に驚きながらも飛び込んでいった姿勢と呼応する。
また、上野公園内の博物館(現在の東京国立博物館の前身)は1882年(明治15年)に正式開館しており、ドラマの時代設定と整合する。万太郎が博物館で見た植物標本の精密さは、欧米(特にドイツ・英国)の植物学が当時いかに進んでいたかを示すものだった。史実の牧野富太郎も1884年に上京後、帝国大学の植物学標本室に特別許可で出入りし、欧米の植物図鑑を熱心に研究したことが富太郎自身の随筆に記録されている(出典:牧野富太郎著「草木とともに」)。
第3週の登場人物・キャスト
今週の新キャラクター
| 役名 | 俳優 | 紹介 |
|---|---|---|
| 槙野寿恵子 | 浜辺美波 | 第13回で初登場。扇屋の女性。後の万太郎の妻。モデルは牧野壽衛 |
レギュラー・主要キャスト
| 役名 | 俳優 |
|---|---|
| 槙野万太郎 | 神木隆之介 |
| 竹雄 | 志尊淳 |
| 槙野綾 | 佐久間由衣 |
| 槙野タキ | 松坂慶子 |
第3週の名シーン・名セリフ
第3週で後年も語り草となった場面を3点挙げる。
第11回の「ジョウロウホトトギスとの出会い」も名場面の一つだ。神木隆之介が山の中で見たことのない花を見つける場面では、万太郎の驚きと歓喜が体全体で表現されており、「これが一生をかけて向き合う植物との関係の原型」だということが静かに伝わる。植物の名前をまだ知らないにもかかわらず花の前でしゃがみ込む万太郎の動作は、「知識より先に感動がある」というメッセージを込めた演出として機能している。
第13回の「万太郎と寿恵子の初めての出会い」は、本作全体の名場面として筆頭に挙げられる。酔って博覧会を飛び出した万太郎が、突然の出会いで言葉を交わす場面の神木隆之介と浜辺美波の掛け合いは、後年配信で見直した視聴者からも「朝ドラ史に残る出会いシーン」として高い評価を受けている(出典:Filmarks、2023〜2024年レビュー集計)。
第14回で博物館を訪れた万太郎が、精緻な植物標本を見て「日本の植物を、わしが全部まとめちゃる」と呟く場面は、牧野富太郎の実際の野望(日本全国の植物を分類・命名する)を象徴するセリフとして記憶される。このセリフは第14回の台詞として多くのレビューサイトで引用されている(出典:hublog.net)。
第3週の視聴率
『らんまん』第3週「ジョウロウホトトギス」の視聴率(関東地区・NHK発表)は、最高値が第11回と第15回の16.2%。第2週(週平均15.1%)から上昇し、寿恵子登場の第13回(16.2%)が話題を集めた。期間を通じて15〜16%台を維持し、2023年春の朝ドラとして上位水準だった。
次週・第4週「ササユリ」の見どころ
第4週「ササユリ」では、東京から帰ってきた万太郎がタキに「植物の研究はやめる」と嘘をつく。竹雄は万太郎の本心を見抜き、綾は家を飛び出して高知の自由民権運動に触れる。そして万太郎は歴史的人物・ジョン万次郎(中浜万次郎)と対面し、「人の一生は短い、後悔はせんように」という言葉を受け取ることになる。

・NHK「らんまん」公式サイト https://www.nhk.or.jp/ranman/
・国立公文書館デジタルアーカイブ「第2回内国勧業博覧会記録」1881年
・牧野富太郎記念館公式(高知県立牧野植物園内)https://www.makino.or.jp/
・ORICON NEWS「らんまん第3週振り返り」2023年4月22日
・シネマトゥデイ「第13回・万太郎と寿恵子が出会う」2023年4月19日
・Filmarksドラマ「らんまん」レビュー集計 2023〜2024年
・hublog.net「らんまん第14回あらすじ」2023年
コメント